デュエプレグランプリ 2024
準々決勝:小栗 vs. 防人

ライター:伊藤 敦(まつがん)
撮影:後長 京介


 「矛盾」という中国の故事がある。

 「どんな盾も貫く」という触れ込みの矛と「どんな矛も防ぐ」という触れ込みの盾を売る商人。その商人に、「その矛でその盾を突くとどうなるのか」と尋ねてやり込める……という話だ。

 「デュエル・マスターズ プレイス」初の大型オフライン大会となったデュエプレグランプリ 2024。第25弾環境を締めくくる一大イベントに参加した約500名のプレイヤーから、賞金獲得ラインであるトップ8にまで勝ち残った8名。その使用デッキの内訳は以下のとおりとなった。

光単天門
光単天門
光水天門
5C M・A・S
5C M・A・S
闇単ヘルボロフ
火自然モルトNEXT
水火UKパンク

 そして準々決勝で実現したのは、そんな逸話を彷彿とさせるマッチアップだった。



 小栗はトップ8に勝ち残った唯一の「水火UKパンク」使い。第25弾で《キリモミ・ヤマアラシ》という強化を得たこのデッキは、今大会において間違いなく環境トップの一角だった。キーカードでありあらゆるS・トリガーを実質的に無効化する《トンギヌスの槍》は、まさしく「最強の矛」と呼ぶに相応しい。

 防人はデュエプレチーム「crescent」に所属しており、今回の使用デッキもチーム調整による「光単天門」だという。トップ32のメタゲームからしても、トップ8に3人(1人は水入りだが)を輩出しているというのは今大会において最も成功したデッキタイプだろう。キーカードでありあらゆる困難を跳ね返す《ヘブンズ・ゲート》は、まさしく「最強の盾」と呼ぶに相応しい。

 だが現実の勝負は商人(この場合はタカラトミーの松浦さんだろうか?)がやり込められて終わりとはならず、どちらかが必ず勝者となり、どちらかが必ず敗者となる。

防人「いやー緊張しますね」

小栗「さっき勝ったとき本当にテンパっちゃって……誤タップだけ気をつけます」



 ここからは2本先取となる。勝ち上がれるのははたして小栗の矛か、はたまた防人の盾か。

 矛盾が激突する準々決勝が、ついに幕を開けた。



Game 1


 先攻は防人。小栗の2ターン目《熱湯グレンニャー》に対して3ターン目《トロワ・チャージャー》で加速するが、対する小栗は3ターン目に《超合金 ロビー》を召喚すると、さらに《熱湯グレンニャー》で果敢にシールドをブレイクする……だがここで防人の反応が止まる。否、考えていたのだ。早速踏み抜いたのは「最強の盾」《ヘブンズ・ゲート》!《提督の精霊龍 ボンソワール》が無料で降臨し、防人の手札に《聖龍の翼 コッコルア》と《護英雄 シール・ド・レイユ》をもたらす。

 続けて返すターン、防人は手を口に当てて考え、悩んだ末に《聖霊王アルファリオン》をマナチャージから《聖龍の翼 コッコルア》を召喚してターンエンド。一方、後攻4ターン目の小栗は《エマージェンシー・タイフーン》を唱えてからまずは《熱湯グレンニャー》で攻撃。これが通……らない!S・トリガー《ドラゴンズ・サイン》!!《トロワ・チャージャー》のおかげで「マナ武装」を既に達成している《護英雄 シール・ド・レイユ》が降臨し、次に攻撃して手札を補充してくれるはずだった《超合金 ロビー》がシールド送りとなってしまう。さすがに2回のブレイクで2枚のトリガーを踏み抜くのは想定外か、小栗も厳しそうな表情を見せる。



 他方、返す防人は《ジャスティス・プラン》を唱え、《真・龍覇 ヘブンズロージア》と《龍覇 セイントローズ》と手札に加えながら、《護英雄 シール・ド・レイユ》で《熱湯グレンニャー》を殴り返して盤面全処理。対「水火UKパンク」としては、ここまで100点の動きと言えるだろう。さらに5マナ目をチャージして《超合金 ロビー》を出したのみでターンを返した小栗に対し、チャージなしで《真・龍覇 ヘブンズロージア》からの《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》!ターン終了時にブロッカーは出さないものの、小栗をじわじわと追い詰めていく。

 それでも小栗もここで引き込んだ《キリモミ・ヤマアラシ》から《神豚 ブータンPOP》を走らせ、「アタック・チャンス」で唱えた《トンギヌスの槍》2枚で《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》と《護英雄 シール・ド・レイユ》を除去しつつ《神豚 ブータンPOP》の効果でさらに3枚目の《トンギヌスの槍》を確保するのだが、既に公開情報で手札がたった今加えた《トンギヌスの槍》のみとなっているため、この攻撃は「P'S ドロン・ゴー」のリスクなく《提督の精霊龍 ボンソワール》にブロックされ討ち取られてしまう。続く《超合金 ロビー》の攻撃こそ通り、残りシールド2枚まで追い詰めるものの、序盤の不運がそのまま展開の差に結びついてしまっている状況。



 対する防人は冷静に公開情報で見えている《龍覇 セイントローズ》から《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》を再び立て直し、7マナ目まで到達して役目を終えた《聖龍の翼 コッコルア》で《超合金 ロビー》を殴り返す。「P'S ドロン・ゴー」はなく、小栗の盤面は再び更地に。ターン終了時にブロッカーは出さないものの、返すターンについに小栗は《終末の時計 ザ・クロック》をチャージするのみでターンを返すこととなってしまう。

 そして、防人の《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》がついに《天命讃華 ネバーラスト》へと「龍解」を遂げる。なおも《ジャスティス・プラン》で《真・龍覇 ヘブンズロージア》《不敗英雄 ヴァルハラ・グランデ》《提督の精霊龍 ボンソワール》《聖龍の翼 コッコルア》と4ヒットで全くリソースが尽きない様を見て小栗は天を仰ぐ。返すターン、ノーチャージから手打ちの《トンギヌスの槍》で即座に《天命讃華 ネバーラスト》を超次元ゾーンへと送り返すのだが、4ドローしている防人にとっては痛くもかゆくもなく、1対0.5交換をしているような状況だ。さらに返すターン、ここで防人も勝負を決めにいくべく、《真・龍覇 ヘブンズロージア》から《不滅槍 パーフェクト》を呼び出し、ターン終了時に《天命王 エバーラスト》へと「龍解」させにいく。



 だが小栗は諦めない。引き込んだ《武闘龍 カツドン》で《提督の精霊龍 ボンソワール》を踏みにいき、相打ちとなったところで「P'S ドロン・ゴー」で《武闘将軍 カツキング》を呼び出す!さらに続く攻撃で《真・龍覇 ヘブンズロージア》もバトルで討ち取り、ついに防人のシールドを残り0枚にまで追い込むことに成功する。

 とはいえ返す防人は《不敗英雄 ヴァルハラ・グランデ》を出してから《武闘将軍 カツキング》を《天命王 エバーラスト》で踏み、ほぼ盤石と呼べる状況。

 しかし、この状況でも小栗には必殺の返し札があった。5枚目の矛、1枚だけ積んだ《熱血龍 GENJI・XXX》を引き込めれば……!



 引き込んだカードの赤さに一瞬期待で目が泳ぐ……のだが、ドローは《暴剣坊 アラシ》。《武闘将軍 カツキング》を回収しながら自爆特攻し、《暴剣王邪 ハリケーン》へと「P'S ドロン・ゴー」するのだが、《天命王 エバーラスト》と《不敗英雄 ヴァルハラ・グランデ》を1ターンフリーズして時間稼ぎをするにとどまる。

 そしてそれが、小栗にとっての事実上のラストターンだった。





 返す防人のアクションは、《提督の精霊龍 ボンソワール》からの《護英雄 シール・ド・レイユ》で《暴剣王邪 ハリケーン》をシールド送りにしてからの、「G・ゼロ」《聖霊王アルファリオン》!天を仰ぐ小栗。

 2ターン後、返し札をすべて封じられた小栗のシールドを防人のブロッカー軍団が一瞬にしてすべて叩き割り、ダイレクトアタックまで決めたのだった。

小栗 0-1 防人

小栗「ありがとうございました」

防人「ありがとうございました」

 最強の盾が、最強の矛を捌ききった。だが、またすぐ2ゲーム目が始まる。およそ20分間にも及ぶ濃密な戦いの疲れを洗い流すように、二人の吐息が交錯した。

Game 2


 負け先で先攻は小栗。《超合金 ロビー》がない手札だが、2ターン目《熱湯グレンニャー》スタートと悪くない立ち上がり。しかも3ターン目のドローが《超合金 ロビー》!すぐさま送り出し、《熱湯グレンニャー》が果敢に1点ブレイク。1ゲーム目の悪夢が想起されるが、トリガーはなくほっと一安心。

 しかも返すターン、マナチャージした防人に3マナのアクションがない!



 この隙に小栗は一気呵成に攻め立てる。《神豚 ブータンPOP》召喚から《熱湯グレンニャー》でブレイク。通る。《超合金 ロビー》でブレイク……通る!開幕から立て続けに3枚を割りきることに成功し、息をつく小栗。

 ここで1ターン遅れでようやく《聖龍の翼 コッコルア》を立てた防人だったが、返す小栗が《武闘龍 カツドン》を召喚してアンタップキラーで踏むと、残り2枚のシールドに対して盤面状況はジャスキル。

 とはいえ、先ほどのターンで多色濁りしていた小栗も《トンギヌスの槍》を1枚も抱えられていない。裸一貫の大勝負だ。

 《超合金 ロビー》でブレイク。何もない。最後のシールドを《熱湯グレンニャー》でブレイク。スマホを握る手を緩め、祈る小栗。はたして結果は……。

 ……通った!《神豚 ブータンPOP》のダイレクトアタックが、防人のアバターに突き刺さった。

小栗 1-1 防人

防人「ありがとうございました」

小栗「ありがとうございました」

 最強の矛が、最強の盾を貫いた。1ゲーム目とは異なり、試合時間は5分にも満たない。水分補給もそこそこに、いよいよ互いのすべてを決する3ゲーム目が開始する。

Game 3


 先攻の防人が再び3パスとなってしまったのに対し、小栗は《熱湯グレンニャー》こそなかったものの3ターン目には《超合金 ロビー》を順調に送り出す。

 一方防人は4ターン目もマナチャージのみで頭を抱えてターンを返すことしかできない。この隙に小栗は《神豚 ブータンPOP》を召喚から《超合金 ロビー》で手札を入れ替えつつブレイク。S・トリガーは……ない。通じた幸運に安堵したか、軽く天を見上げる小栗。

 他方、5ターン目を迎えた防人は考える。この後に続くであろう攻撃を受けられる手段はあるか。最適な行動とは。《神豚 ブータンPOP》がいる以上、《トンギヌスの槍》の1枚くらいは覚悟しなければならない。

 少考ののちに意を決した防人のアクションは《ドラゴンズ・サイン》から《真・龍覇 ヘブンズロージア》!思わず小栗が顔を歪ませる。《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》から、エンド前に出されたのは……《提督の精霊龍 ボンソワール》。最悪の《護英雄 シール・ド・レイユ》ではなく、少し安心した表情を見せる小栗。

 それでも《提督の精霊龍 ボンソワール》の能力で《護英雄 シール・ド・レイユ》が加わったのが見えている以上、猶予は残されていない。返すターン小栗は《武闘龍 カツドン》を召喚して《提督の精霊龍 ボンソワール》へと攻撃しにいき、相打ち後に「P'S ドロン・ゴー」で《武闘将軍 カツキング》を降臨させる!

 そのままアンタップキラーで《真・龍覇 ヘブンズロージア》を討ち取ると、能力で残り4枚のシールドにW・ブレイクが走る。そして、S・トリガーは……ない!

 続けて《神豚 ブータンPOP》で攻撃。ということは、当然持っている。《トンギヌスの槍》!

 だが残り2枚のシールドに対して1枚。つまり《神豚 ブータンPOP》のブレイクがまだある。攻撃できるクリーチャーは《超合金 ロビー》のみ。エフェクトが走る。息を吸った。そして。

防人「ありがとうございました……」

 その矛はすべてを貫通する。

 《超合金 ロビー》のダイレクトアタックが通った。最強の盾を、最強の矛が貫き通したのだった。

小栗 2-1 防人

 2ゲーム目も3ゲーム目も初動事故、しかも合わせて9枚分のシールドがノートリという不運に見舞われてしまった防人。最後、《トンギヌスの槍》に貫かれたシールドは《ドラゴンズ・サイン》か《ヘブンズ・ゲート》だったのだろうか……いずれにせよ、決して貫かれないはずの最強の盾に計算違いがあったとすれば、最強の矛の使い手である小栗もまた、最強の矛使いであったことだろう。

Winner: 小栗